研究ハイライト

EISCAT_3D:宇宙天気研究のための新北極大気レーダーの建設開始を決定2017.6.12

図1: EISCAT_3Dレーダーの完成予想図。6角形サブアレイ109個にそれぞれ91本のアンテナが設置され、全体の直径は約70mとなる。

図2: EISCAT_3Dレーダーサイトの建設予定場所。送受信を行う主局はシーボトン(ノルウェー)に、受信専用局はカイセニエミ(スウェーデン)およびカレスバント(フィンランド)に設置される予定。

2017年6月12日

新北極大気レーダー「EISCAT_3Dレーダー」の建設開始を正式に決定しました。
国際共同プレスリリースより引用)

EISCAT(欧州非干渉散乱)科学協会(加盟国:日本、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、英国、中国)は、EISCAT_3Dレーダーの建設を開始することを、5月31日、6月1日に国立極地研究所で開催されたEISCAT評議会において正式に決定しました。
EISCAT_3Dレーダーは、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンの3か所に設置される予定で、超高層・中層(高さ60~2,000km)大気の密度、温度、動きなどを3次元で高解像度に測定することで、太陽風が地球に与える影響(宇宙天気)や北極気候変動の仕組みの解明と監視を目指しています。なお、国立極地研究所は、1996年からEISCAT科学協会の日本の代表機関を務めています。


国際プレスリリース文(事務局による仮訳)

EISCAT_3D計画:宇宙天気研究のための新北極大気レーダーの建設が正式決定
国際共同研究のための新たなEISCAT_3D(欧州非干渉散乱3次元)レーダーの建設を開始することが今月、正式に決定されました。これにより、オーロラ現象など、太陽面の爆発現象や太陽風が北極を始めとする全球の超高層大気や地表に及ぼす影響(宇宙天気)について、その理解が飛躍的に進むと期待されます。6.85億スウェーデンクローネ(約88億円)の予算で、シーボトン(ノルウェー)、カイセニエミ(スウェーデン)、カレスバント(フィンランド)の北欧3か所にレーダー施設が整備されます。各施設には約1万本のアンテナが設置され、主局のシーボトンでは5メガワットの送信と受信、他の2局では受信が行われます。本計画は2017年9月より開始され、3地点の施設整備が2018年夏に、また、本格観測が2021年に始まる予定です。
EISCAT_3Dレーダーは、欧州の北極域における超高層大気や地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)を探査する世界最先端の重要な手段となります。本レーダーは、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、英国、日本、中国(以上加盟国)ならびに準加盟国の研究評議会や国立研究所で構成されるEISCAT科学協会の主導で整備されます。EISCAT_3Dレーダーは、EUの支援による10年に及ぶ設計・準備研究の成果のたまものです。最新のフェーズドアレイ方式を用いて、従来の単一レーダーの組み合わせでは実現できなかった新たな観測が可能です。レーダーの名前からも分かるとおり、鍵となるのは、これまでにない優れた空間分解能で超高層大気を3次元観測する能力です。これは、宇宙空間から流入する高エネルギー粒子や電流が超高層および下層大気に及ぼす影響(宇宙天気、オーロラ現象、気候変動)の解明に加えて、実用衛星や地上の電力網といった現代の社会基盤に与える影響を監視・予測するために必要不可欠のものです。


EISCAT科学協会 Craig Heinselman所長の談話

「新たなEISCAT_3Dレーダーシステムを建設できることになり、たいへん喜んでいます。35年にわたるEISCATレーダーによる観測研究の実績を踏まえ、この新レーダーは、国際的なEISCATユーザーコミュニティが、地球周辺の宇宙環境に関する多くの謎を解明することに貢献します。本レーダーは、現在のEISCATレーダーに比べて少なくとも10倍以上高速に、10倍以上高解像度の観測が可能です。さらに、送受信を行う主局と2か所の受信局を連携して運用することで、オーロラの3次元構造や宇宙天気の基本的な影響などユニークな観測を実施することができます。さらに、EISCAT_3Dでは今後新たに生まれる観測課題の実証を可能にする最新のアナログ・デジタル技術を駆使しており、まさに、次世代のための基盤的な観測手段となるものです。」


用語説明

EISCAT科学協会:
北欧に設置した非干渉散乱レーダーを国際共同運用する非営利財団。1975年に設立。本部はスウェーデン・キルナの宇宙物理研究所内。現加盟国はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、英国、日本、中国の計6か国。日本は1996年に正式加盟し、レーダーの維持運用及び超高層大気の国際共同研究に貢献している。2007年に改訂した現協定では国立極地研究所に加えて名古屋大学太陽地球環境研究所(宇宙地球環境研究所に改組)も加盟機関となったが、2017年に発効する新協定では、日本の代表機関は国立極地研究所のみとなる。

非干渉性散乱:
電波の散乱には、干渉性散乱と非干渉性散乱の2種類がある。干渉性散乱は、入射波(レーダー送信波)と散乱波(レーダー受信波)の間に位相関係がある(波が揃っている)が、非干渉性散乱ではバラバラとなる。電離圏内のレーダー電波の散乱は個々の電子の熱運動によるため、バラバラな非干渉性散乱となる。非干渉性散乱による散乱波は干渉性散乱に比べて非常に弱い。

非干渉散乱レーダー:
電離圏内の電子からの非干渉性散乱による微弱な電波を用いて電子密度、イオン温度、電子温度、イオン速度などの物理量を測定する高性能レーダー。非干渉性散乱による微弱な電波から物理量を導出するには大口径(直径30m以上)の送受信アンテナと大電力送信(1メガワット以上)を必要とする。

カテゴリ:EISCAT_3D


EISCAT_3Dのサイエンスケースをまとめた論文をPEPS誌に出版2015.7.30

スカンジナビア半島上空の電離圏をEISCAT_3Dレーダーで立体観測したときの想像図(EISCAT科学協会提供)

日本語ハイライトより抜粋:

 欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会は、高緯度のさまざまな超高層大気研究に利用可能な非干渉散乱(IS)レーダー施設を、スカンジナビア半島北部とスバールバルの2ヶ所に設置し、運用してきた。そのうち、1980年代初めにスカンジナビア半島北部に設置されたISレーダーは、30年以上前の技術に基づいているため、よりフレキシブルな観測装置を追加装備することが、現在求められている。特に、対流圏から電離圏上部までの広い高度領域において、3次元かつ立体的に物理量が得られることや、連続観測が可能であることが不可欠な条件として挙げられる。

 そのような世界をリードするISレーダー施設を利用して、将来の科学研究を促進するための新たなレーダーシステム計画(EISCAT_3D)の検討が進められた。まず2005〜2009年にデザインスタディを行い、その後2010〜2014年に準備フェーズのプロジェクトを実施した。これらは欧州連合(EU)の大型研究枠組み計画(FP-6およびFP-7)による資金提供を受けて進められ、今後2020年代初頭にEISCAT_3Dレーダーの第1段階の稼働を目指している。この新たなレーダー施設では、フェーズドアレイ方式と、高度なソフトウェアおよびデータ処理技術を用いる。この種の "ソフトウェア・レーダー" は、世界中のISレーダー観測施設の草分けということができる。このレーダー施設は、EISCAT_3D科学コミュニティから集められた多くの科学課題の解決に役立つだけでなく、宇宙天気に関連する諸問題や人工衛星利用などの宇宙技術に依存する現代社会に対しても有益である。このレーダーは、オーロラオーバル内かつ成層圏極渦の端に位置するため、大気の長期変動や地球規模の大気変動の研究にも最適である。

 本論文は、EISCAT_3D準備フェーズプロジェクトの一環で作成した、EISCAT_3Dのサイエンスケースの要約版である。本論文は、EISCATユーザーコミュニティから選抜した3つの国際サイエンスワーキンググループによって執筆された。本論文の共著者として記載したワーキンググループメンバーに加え、多くのEISCAT科学コミュニティメンバーによるディスカッションやサポートなどの貢献に感謝する。

McCrea A. Aikio, L. Alfonsi, E. Belova, S. Buchert, M. Clilverd, N. Engler, B. Gustavsson, C. Heinselman, J. Kero, M. Kosch, H. Lamy, T. Leyser, Y. Ogawa, K. Oksavik, A. Pellinen-Wannberg, F. Pitout, M. Rapp, I. Stanislawska, and J. Vierinen, The science case for the EISCAT_3D radar, Progress in Earth and Planetary Science 2015, 2:21 doi: doi:10.1186/s40645-015-0051-8 (29 July 2015).


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